PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の特性を徹底解説:耐薬品性・圧電性・用途別の完全ガイド
フッ素樹脂の中でも「PVDF(ポリフッ化ビニリデン)」は、耐薬品性・機械的強度・圧電性といった優れたバランスを持つことで注目を集めています。特に化学プラントや電子部品、リチウムイオン電池、膜材料など、高い信頼性を求められる分野で多用されています。本記事では、PVDFの構造から特性、他のフッ素樹脂との違い、用途別選定ポイントまでを徹底解説します。
PVDFとは?構造と基礎特性
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、モノマーであるビニリデンフルオライド(CH₂=CF₂)を重合して得られるフッ素系熱可塑性樹脂です。分子構造は炭素鎖に水素とフッ素が交互に結合しており、その結晶性の高さが特性を支えています。
| 項目 | 代表値 | 特徴 |
|---|---|---|
| 比重 | 約1.78 | 比較的高密度で、剛性がある |
| 融点 | 約170℃ | 高温環境でも形状を保持 |
| 引張強度 | 約35〜55 MPa | フッ素樹脂中では高強度 |
| 誘電率(1kHz) | 約8〜10 | 優れた絶縁性と圧電性 |
| 連続使用温度 | 約120℃ | 高温でも長期安定性が高い |
結晶構造と特性の関係
PVDFは半結晶性ポリマーであり、α相・β相・γ相の3つの結晶形態を取ることが知られています。中でもβ相は分極が強く、圧電性を発現する構造として有名です。この特性を制御することで、センサやアクチュエータとして利用が可能になります。
また、他のフッ素樹脂(例:PTFEやPFA)と比較すると、PVDFは成形性と機械的強度のバランスが良く、押出・射出成形・溶接など幅広い加工法が選べます。これらの違いは「フッ素樹脂の種類と特性比較」で詳しく解説しています。
PVDFの主要特性を徹底分析
1. 優れた耐薬品性
PVDFは酸、アルカリ、塩素系薬品、有機溶剤に対して高い耐性を持ち、特に化学プラントや純水配管で使用されます。高濃度硫酸・塩酸環境下でも劣化が少なく、金属代替材としても利用されます。耐薬品性能の比較は「フッ素樹脂の耐薬品性データ」で詳しく紹介しています。
2. 機械的強度と耐摩耗性
PVDFはフッ素樹脂の中で特に機械的強度に優れており、引張強度はPTFEの約2倍。さらに耐摩耗性にも優れるため、摺動部材やギアにも適用されます。
3. 耐熱性と熱安定性
融点は約170℃、ガラス転移点は-35℃前後と広い温度範囲で安定しています。130℃付近までの連続使用が可能で、PFAよりもやや低いですが、コスト面で優位な選択肢となります。
4. 圧電性と誘電特性
分子鎖の配向を制御してβ相結晶を形成すると、圧電性を示します。この性質により、センサ、超音波素子、アクチュエータ、電極膜など機能部材として応用が広がっています。
5. 耐候性と難燃性
屋外用途にも対応可能な高い耐候性を持ち、紫外線や酸化に対しても強いのが特徴です。難燃グレードではUL94 V-0に適合する製品も存在します。
PVDFの用途分野と実用例
- 化学装置・配管:タンク、バルブ、ライニング、薬液搬送チューブなど
- 電子部品:リチウムイオン電池バインダー、電解コンデンサフィルム
- 医療分野:高純度薬液輸送、フィルター膜
- 建築用途:PVDF系塗料(耐候性外装材)
これらの用途については、「PVDFの用途と応用事例」でさらに詳しく紹介しています。
フィリールマテリアルの取り扱い材料
フィリールマテリアルでは、PVDFをはじめとするフッ素樹脂材料(PCTFE、PTFE、PFA、ETFEなど)を幅広く取り扱っています。これらの材料は、化学薬品への耐性・高純度性・絶縁性などを求める半導体・医療・化学業界で高く評価されています。
他のフッ素樹脂との比較
| 項目 | PVDF | PTFE | PFA |
|---|---|---|---|
| 耐熱性 | ◎(〜130℃) | ◎(〜260℃) | ◎(〜260℃) |
| 機械強度 | ◎ | △ | ○ |
| 成形性 | ◎(射出可) | × | ○ |
| 圧電性 | ◎ | × | × |
| コスト | ○ | ×(高価) | ×(高価) |
設計・選定時の注意点
- 連続使用温度を超えない設計
- 溶出物管理(半導体用途では重要)
- 長期暴露時のUV耐性評価
- 結晶構造制御による特性差異の理解
よくある質問(FAQ)
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、機械的強度と成形性に優れたフッ素樹脂で、射出成形や押出成形が可能です。一方PTFEは最高レベルの耐薬品性を持つものの、加工が難しい点が特徴です。これらの違いは用途選定で重要です。フッ素樹脂の種類と特性比較で詳しく解説しています。耐薬品性の基準については、JIS(日本工業規格)を参考にしてください。
PVDFは高い耐薬品性と耐熱性を活かし、化学プラント、リチウムイオン電池、電子部品、純水配管などに広く利用されています。特に高濃度酸や溶剤環境下での安定性が評価されています。用途別の具体例はPVDFの用途と応用事例で紹介しています。規格面の参考情報はJIS規格をご覧ください。
PVDFの圧電性は、分子配列の制御によってβ相構造を形成することで発現します。この特性により、センサやアクチュエータ、超音波素子などに応用可能です。
まとめ
PVDFは、耐薬品性・強度・圧電性という三拍子が揃った高性能フッ素樹脂です。PTFEやPFAに比べ成形性やコストの面でバランスが取れており、電子、化学、医療、建材分野など多用途で採用されています。正しいグレード選定と設計条件を理解すれば、長期信頼性を確保できます。
他の樹脂との比較や応用事例については、「フッ素樹脂の用途比較ガイド」で詳しく解説しています。


